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そう考えた途端、その考えを肯定するかのように心臓が早鐘のように動いた。
俺達は特徴なんて、何一つ知らされていなかった。
誰かにこいつがそうだ、なんて言われていない。
だけど、俺はこの女があの巫女の子孫だともう信じて疑わなかった。
那音が言っていた『会えば分かる』の意味が今なら分かる。
間違いない。
この女は俺達の問題を唯一解決できる、伝説の巫女の子孫だ。
そうと分かれば、赤鬼なんて相手にしてないでこいつに俺達のところに来て貰わないと。
女に、『さっさとこいつ(赤鬼)を片付けるからそこで待ってろ』と言うつもりで口を開こうとした。
した、のだが。
「ふざけていませんよ。見たところ余裕みたしだし、足手まといにならない内に私は避難しておきます」
「おい、待て!」
「もしも次に会えたら、何かお礼しますねー。それじゃ」
女は既に、自分が言ったふざけたことを自分で実行していた。
足を大きく上げて、器用にも細い塀の上に立ち昇る。
女は、最初に見たときと余り変わらないめんどくさそうな顔を少しだけ緩ませてヘラッと笑う。
そのままゆっくり俺に向かって手を振ると、後ろを向いて俺の制止も聞かず塀から飛び降りて姿を消した。
「あのニンゲン次会えたらって会う気ないだろ……言い逃げか」
俺も組織の中では若い方だが、ニンゲンからみれば結構年期積んでいるはずだ。
ざっと、五、六百年くらいか。
そのくらい生きて、覚えきれないくらい数のニンゲンに会った俺だがこんなニンゲンには初めて会った。
そして、出来れば会いたくなかった系統のニンゲンだ。
あの女が指令の女だって、泣けてくる。
「グウゥゥゥ……」
赤鬼の低い唸り声にすら苛苛してきた。
「とりあえずはコイツを何とかして……後は那音に報告だな」
しかし、よくもまあ俺が考えている間待っててくれたものだな。
この赤鬼は。
牽制してかなりの距離をとっていたとはいえ、俺も結構戦闘中にしては長い時間考え込んでいたはず。
低級のくせに、そういう礼儀はあるのか。
鼻息荒く俺に向かってくる赤鬼の槍を軽くいなして俺は棍を振りかざした。
「じゃあな」
軽い別れの言葉を呟くと、そのまま棍を振り下ろす。
鈍い音と共に悲鳴もなく倒れていく赤鬼を無感情で見つめた。
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