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個人情報の管理に厳しい学校を相手に、悠介を捜し出す方法を考えた。
とりあえず、県内にある高校に片っ端から電話をかけた。
市外局番が表示されると都合が悪いので、固定電話からではなく携帯からかける。
悠介なら、きっと化学部に入っている。文化祭までは引退しないはずだ。
放課後の時間帯を狙って在校生を装い、化学部の森悠介はまだ学校に残っているかと問い合わせた。
そんな生徒はいないと返ってきたら、間違えましたと謝って切る。
これを延々と繰り返す。
結果、収獲なし。
県外の高校だという事はわかった。
私立、公立あわせると、日本の高校は約五千。そこに専門学校を足すと……気が遠くなりそうだったから、それ以上考えるのはやめた。
「はあ……。どうして未成年ってだけで引き受けてくれないんだよ」
目の前にそびえ立つ古ぼけたビルを眺めながら、もう何度目かわからない溜め息をついた。
僕みたいに何の力も無い人間にこそ、こういった助けが必要なのに。
名刺に書いてある、ありふれた名前と、探偵事務所の文字。
対応してくれたのは、これといって特徴のない男の人だった。こういった職業には向いているのかもしれないけれど。
両親の同意がないと、未成年とは契約書を交わせないと言われた。
あるいは、両親のどちらかでもいいから、また一緒に来てくださいと。
無理に決まっている。
かといって成人するまでなんて、もう待てそうになかった。
僕と会う事で、きっと苦しめてしまう。
それでも、会いたい。
遠くからでいい。
一目見るだけでいいから。
最後に見たお前の泣き顔が、心に焼き付いて離れない。
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