643人が本棚に入れています
本棚に追加
ダイニングのソファーには、腫れぼったい目をした男が、長い手足を窮屈そうに折り曲げ、静かな寝息を立てている。
本当は、怖くてしょうがない。
僕が傍にいることで、同じ過ちを繰り返してしまうかもしれない。生まれ変われたはずの心まで、また閉じ込めてしまうかもしれない。
胸の上に置かれた手に、自分の手を重ねる。
僕よりも遥かに大きな手。それでも、守っていくべき存在であることに変わりはない。
寝顔を見つめながら子守歌を口ずさんでいると、悠介の目がすうっと開かれた。
僕を数秒見つめた後、まだ夢の中にいるような表情で瞬く。
「ごめんね。起こしちゃった? 外、雪が積もってるよ」
「……その歌は」
「おばさんに……、悠介のお母さんに教えてもらった歌なんだけど……」
「――そうか」
軽く伸びをした悠介が、気怠げに髪をかき上げ苦笑する。
「全く憶えていない」
腹筋だけを使って上体を起こしたはずみで、男の胸元がはだけた。昨夜の色香の名残に、頬が一気に熱くなる。
「もしかして、ほんの少し……音痴じゃないか?」
「ひ、人が気にしてる事をサラッと言うなっ」
ソファーに置かれたクッションを思い切り投げつけ、背を向ける。
「もう二度と歌ってあげない!」
「おい……」
赤面を誤魔化す為の剣幕なのに、少し焦った声音が返ってくる。
背後から服を引っ張られ、そのまま腕の中に引きずり込まれた。
「……怒らないでくれ」
全身の骨に響き渡っていくような、かすれた低音。
徐々に下がってきた悠介の掌が、ちょうど下腹部の位置で止まった。
最初のコメントを投稿しよう!