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「身体、大丈夫か」
「――大丈夫だよ。ちょっとだけ……歩きづらいけど」
優しい声音と温もりに、全身の力が抜けていく。
この瞬間が夢のようで、この気持ちを伝えてあげたくて、顔だけを振り向け、苦しい体勢で口づけた。
すると、至近距離にある悠介の顔が、見る見るうちに真っ赤になっていった。
「――――え……?」
僕の拙いキスで首筋まで染め上げた男を凝視する。
「なんか、あんた慣れてないか」
「そんな訳……ないでしょ」
「じゃあ、俺とのキスが、初めてか」
脳裏に悪代官の顔が浮かんでしまった。
即答しない僕を不審に思ったのか、明らかに不機嫌になる。
「相手……誰だ。俺の知っている奴か」
「あ、あれは、罰ゲームのようなものだったし、カウントには入れな――……」
「誰だと訊いている」
「相沢、だよ。――って……い、痛っ!」
悲鳴を上げると、少しだけ拘束が緩められた。
「本当に、ふざけてキスしただけだから……」
表情を確かめたいのに、悠介の腕がそうさせてくれない。
「――――見るな。顔も、心の中も……みっともない」
「もしかして……妬いてくれてるの」
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