第1章

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「今日はどうなさいました?」と白衣の女性が言った。 「詰め物がとれました」K子はまだこの時平常心だった。  背を見せていた白衣の男性が振り向いて言った、 「どれみせてごらん」  早速、歯医者はK子を寝かせ作業に取りかかった。  歯医者は白の帽子とマスクをしていた。表情を読みとれるのは目だけだ。K子はその目が怖かった。なるべく見ないようにした。 「すぐ終わりますから口を開けたままにしてください」  K子は嫌だった。口を開けているのが嫌だった。口を見られるのが嫌だった。顎への負担が嫌だった。何よりドリルが音を立てて口に入っていくのが屈辱的だった。全身が異物だと反応し鳥肌が立った。拒否することが出来ずに涙が頬を伝った。しかし、歯医者はそれに気づかなかった。 「もう終わりますよ」と歯医者が言った。しばらく経ってからまた、もう終わりますよ、とさっき言ったことはまるでなかったかのように歯医者が言った。それを最後に沈黙のまま作業は続いた。
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