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――陣痛の波がここから三分に一回間隔になる。ぎゅう~とお腹から少しずつ押し出して行くことで赤ちゃんが下に徐々に押し出される――わたしは知らなかったがこれが『いきむ』ことなのだ。
初産(ういざん)だと二時間ほどかかる、つまり四十回くらいはいきむということ。――絶望的なデータだ。
痛みの波が来る合間はトメさんと雑談をする余裕も出てきた。
「今日、沢山出産があったんですね」
「そうなのよ! おんなじ日に四人もお産が重なってねェ~。あ鈴木さんで五人目。……ひとりで待っていて、心細かったでしょう。ごめんなさいねえ」
「あいえ」丁寧に頭を下げられた。「あきた、きた」
「息を吸ってぇ~」
「ひ、ひ、ふぅ~~」
痛いのが来る。
ふぅ~のタイミングでものすごく力を使い、吐き出す。ハンドルを掴みながら腕を上にあげ、同時に、両足をめいっぱい蹴りだす。おなか全体に力を込める。
「ふぅ~」息を二回吐けそうだ。どうせ『いきむ』のならワンブレスじゃなくてツーブレス入れたい。
『いきむ』回数を出来るだけ少なくしたい。となると、二回いきんだほうが楽だと思った。
「そう、そう、上手、……ああもう一回いきむの。ふぅ~」
トメさんが気づいてわたしに合わせてくれる。「ふぅ~、……あらー、初めてなのにじょぉーずぅー。さーさ、いきんだらしっかり休んでねぇ」
二の腕と、内腿と腹筋と、……とんでもなく筋力を消費した。
出産が登山並みに辛いというのをいましがた理解した。体力・精神力ともにものすごく消耗する。
――『いきむ』のを十七回続けたころだろうか、医師が再びやって来る。この頃にはトメさんと雑談する余裕もなくなってきて、いきむとやすむのインターバル。――このとき医師がなにをするかと言うと、指を突っ込んで産道をかき回す。赤ちゃんが出てきやすいようにしてくれるのだ。
当然、痛い。
あまりの痛みに絶望的な気分にもなる。
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