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肩に力が入りすぎていると昨日の助産婦さんに言われた。そのとおりだ。歯を食いしばるのをやめ、ひぃ、ふぅー、と痛みを逃すようにする。頭のなかに南の島の海をイメージする。マタニティヨガのDVDで学んだ呼吸法をしようとする。
「ふぅ~」
見回すと、五人部屋のカーテンが他に三つ閉まっていた。すると、慌ただしい気配が訪れた。はす向かいの病床に、出産されたばかりの方がいらしたようだ。がらがらとストレッチャーで運ばれる独特の音。足音が連なる。呻く産婦。小さい声だが付き添いの方に説明をする深刻な医者の声。夫の相槌。再び足音。助産婦の動く気配。足音。……ものすごく大変なお産をされたようだ。帝王切開どころかそれ以上の雰囲気。
「どしたの」
「わ」
夫が来た。ちらと向こうを見てカーテンを閉める。「産まれんの? 今日?」
「知るわけないじゃん。お医者さんにまだ見て貰ってすらないんだからさ」
「あそ」かばんを床に置き、丸椅子に座った。「大丈夫?」
「……つぅうう」
「ひ、ひ、ふぅう~力抜いて」
「腰が、痛い。痛い」
「力抜いて。リラ~ックスリラ~ックス……ひ、ひ、」
「ふぅう~」
夫とひたすら繰り返す。汗だらだらだ。
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