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phase3
どのくらい経った頃だろうか。カーテンが唐突に開いた。「あのう、大丈夫かしら?」顔を覗かせたのは、さっきとは別の、年配の助産婦だった。
――全然大丈夫じゃない。
たまらず答えた。「なんかあの、出したい感じが続いてるんですけど」
「いきみたいのっ!?」すごい剣幕だった。一見すると冷静そうな助産婦さんなのに。
「あの、いきみたい、ってのがどういうのか分かんないですけど、なんか出したい感じが……」
「まあ大変!」
そこからは急展開だった。
ものすごい勢いで出て行った助産婦が車椅子と点滴セットを持って戻ってきたと思ったら、夫はカーテンの外に追い出され、わたしは手術着に着替えさせられ、車椅子に乗せられ点滴を付けられがらがらと分娩室へ運ばれた。
(あんなスピードで車椅子で運ばれるのは人生最初で最後だと思いたい)
なにも分からずついてきた夫は「ご主人立ち会い希望ですか」と聞かれた末に首を振り、「じゃあ廊下で待っていてください」ととっとと追い出された。
わたしは助産婦に尋ねた。
「あの。分娩室に、ってことは産まれるんですか」
「産まれますよ。早くて八時くらいにはね」
「八時!?」
この声は廊下に届いたようだ。わあとかなんとか大声が聞こえた。
分娩台に乗るも、足を広げるあの姿勢はまだ先のようだった。さっきと同じく左を下にして横たわる。
室内には、産まれたばかりの赤ちゃんがまだ残されていた。心なしか空気も生温かい。――この病院の分娩室は二つ。二つが二つとも使われていた生々しい雰囲気が漂っていた。――血なまぐさしさと緊迫感の名残。
助産婦は、前の方の後片付けをしながらこちらの準備をしている様子。
軽く診察らしきものも受けたところ、破水は、していないとのことだった。
(わたし的にはしていてもおかしくはないという感覚だった)
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