34人が本棚に入れています
本棚に追加
「あの。いきみたいんですが、……」
「まだ駄目!」
すごい勢いで却下される。
「そしたらどーすれば、……うっ」
「使う?」
「あはい」
テニスボールを手渡された。
肛門の辺りをがっちり押さえ込む。……じゃないと出てきそうだ。我慢しろ我慢しろ、いや、痛みを逃せ逃せ。
「ひ、ひ、ふぅ~でも、なーんでもいいのよ。あいまちょっと出てくからちょっと待っててね」
「あはぃい」声が裏返った。
分娩室にひとり残され、痛みにのたうち回る。
振り返るとこの時間が孤独ですごく、長かった。
他に誰も居ない。どうやって待てばいいのか。ひたすら来る痛みの波を分かち合う相手も居ない。
出そうになるのを必死に押さえるのは、出そうになる嘔吐物を無理矢理押さえ込む苦しさがあった。
――だから、助産婦が医師を連れて戻ってきたときは、神に救われた心地だった。
(わたしは無宗教だ)
最初のコメントを投稿しよう!