プロローグ

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「いくら人気が少ないとはいえ……流石にこんな道端で長居するわけにも行かないし、カードの暗証番号は無理かしらね……さて、と」  男達が死に瀕した意識の中で見た最後の彼女は、おもむろに服を脱ぎ捨てる姿。しかし、全てを脱ぎ捨て一糸まとわぬ姿になった彼女の体は、体毛が伸び、顔はマズルが出て、耳は三角形に。見る見るうちに変態したその姿は、形容するならば蝙蝠の翼が生えた蒼いオオカミ女。その少女は、いわゆる人間ではなかった。  その異形のオオカミ女は、路地裏にまでその三人を引っ張って、誰かに気付かれる前にと、それらの死体を全て胃袋に叩き込む。異次元に繋がっているかのような胃袋は、彼女の体型をまったく変えずに、体重だけを彼女に与えた。 「ご馳走様……久しぶりに魔力の補給ができたわ」  口周りに付いた血を拭い、オオカミ女は少女に戻り、服を着込む。きちんとした身なりになったら、次は三人の財布を回収し、少女は人目を避けながら再び帰路につく。久しぶりに魔力を補給できた彼女は見るからにご機嫌であった。 「あら……」  その途中、少女は男を見つける。Tシャツにジーンズと言うかざりっけのない私服のまま酷く泥酔した男で、よろよろとおぼつかない足取りで家へと帰ろうというところらしい。無精ヒゲ、目にはクマ、爪や拳はボロボロに傷ついている。泥酔していることも相まって明らかに何かやばい人種なのであるが、少女は恐れることなく話しかける。 「悲しい目をしておりますね。どういたしました?」  確信を持って、少女が尋ねる。少なくとも、悲しい目をしているという事に、一切の疑いを持っていないようだ。 「うるせーよ……子供がこんな時間にうろついてるんじゃねー……死ぬぞ!? 殺されるぞ!?」  と、言ったのだろう。実際にはろれつが回っておらず、不明瞭な言葉であったが。  これが、少女と男の出会いであった。
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