第5話

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「今、電話大丈夫?」   「…うん、田原さんこそ…、用事…は?」 「ああ、早く終わったから。 今、どのあたり?」 今いる正確な位置を言ったら、きっと飛び上がる。 「…もうすぐ、着くよ。西口だったよね? 出入り口付近に立って待っててくれますか?」 「OK」 通話を終了させた後、スマホをバッグへ押し込み、 黒く、もやもやとした感情を抱えたまま駅へと向かった。 濃い茶のコートに身を包み、スマホを操作している田原さんを見つけた。 ただ立っているだけなのに、道行く女性の目線が彼に向かっている。  いや、実際はそうではないかもしれないけど、何となくそんな気がする。 ふと顔を上げた田原さんが私に気づき、微笑んで手を上げた。
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