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「和貴からも止められとって。んで、」
お弁当で口をモゴモゴさせる紗優の言葉が続く。
「最初の二週間はクラスで馴染む大事な期間やから、邪魔しちゃ駄目だよって」
「はは」
その大事な期間に思いきり浮いてましたよ。
「マキも、ホントは心配だったみたい」
嘘でしょう。
冗談よして、と笑い飛ばすつもりが、視野の隅に映る。強風にはためく白いノートが。
置きっぱにしてたからだ。
慌てて左に向き直り、表紙を抑えようとするも、手が止まる。中身に違和感を覚えて。
これ……。
「真咲のことずっと見とるし。気づかんかった?
放っといていいのかって和貴に聞きにきてんよ。ちゃんと考えてるって答えるんに、困っとったみたいやな。
あのな?
和貴がうちに来て、『みんなで簡単に楽しめて一体感があって結束力が持てる遊び』ってないかな、ってゴチャゴチャ言っとった。ちょうどそん時、怜生がドッジボールやって帰ってきたんよ。ルールとか色々聞いとった。
和貴、相当キレてたから、あれあいつの作戦だよ。
マキは多分な、ムカついたから小澤に当てに行ったんやわ。まっさか、真咲が顔面ブロックするなんて思わんかったやろね。あははっ」
紗優の話を耳に入れず、私はノートを食い入るように見ていた。
体育以外の授業が一冊に纏められている。
正確に言うと、真新しい大学ノートに各授業のノートのコピーが糊付けされ。上からインデックスのように、授業名を書いた付箋が貼ってあって。
黒板を写した以外の内容、よくよく見ると鉛筆書きだ。何限目、何時から開始、教科書の何頁から何頁まで。果てには担当教師の名前までも。
これらは一度コピーを取ってから書き足したのだろう。授業中、別紙にメモを取るかして。
ふふっと笑いがこぼれた。
こんなに几帳面なのに、何故わざわざ新しいノートに貼り付けているのか。
その不器用さに笑えた。
「真咲、聞いとる?」
「ぜんぜん……」言葉と共にノートを胸に抱き締めた。
もーっ、と紗優は膨れるも、私の心には温かいものが流れる。
こんな私たちの間を風が吹き抜ける。
いい気持ちだった。
「和貴に任せっぱやったけど止めた。これからは遠慮せんよ」
紗優は歯を見せてニカッと笑う。
私もつられて微笑む。
それが、新しい学校生活の始まりの合図だった。
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