第七章 ホントは心配だったみたい

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「和貴からも止められとって。んで、」 お弁当で口をモゴモゴさせる紗優の言葉が続く。 「最初の二週間はクラスで馴染む大事な期間やから、邪魔しちゃ駄目だよって」 「はは」 その大事な期間に思いきり浮いてましたよ。 「マキも、ホントは心配だったみたい」 嘘でしょう。 冗談よして、と笑い飛ばすつもりが、視野の隅に映る。強風にはためく白いノートが。 置きっぱにしてたからだ。 慌てて左に向き直り、表紙を抑えようとするも、手が止まる。中身に違和感を覚えて。 これ……。 「真咲のことずっと見とるし。気づかんかった? 放っといていいのかって和貴に聞きにきてんよ。ちゃんと考えてるって答えるんに、困っとったみたいやな。 あのな? 和貴がうちに来て、『みんなで簡単に楽しめて一体感があって結束力が持てる遊び』ってないかな、ってゴチャゴチャ言っとった。ちょうどそん時、怜生がドッジボールやって帰ってきたんよ。ルールとか色々聞いとった。 和貴、相当キレてたから、あれあいつの作戦だよ。 マキは多分な、ムカついたから小澤に当てに行ったんやわ。まっさか、真咲が顔面ブロックするなんて思わんかったやろね。あははっ」 紗優の話を耳に入れず、私はノートを食い入るように見ていた。 体育以外の授業が一冊に纏められている。 正確に言うと、真新しい大学ノートに各授業のノートのコピーが糊付けされ。上からインデックスのように、授業名を書いた付箋が貼ってあって。 黒板を写した以外の内容、よくよく見ると鉛筆書きだ。何限目、何時から開始、教科書の何頁から何頁まで。果てには担当教師の名前までも。 これらは一度コピーを取ってから書き足したのだろう。授業中、別紙にメモを取るかして。 ふふっと笑いがこぼれた。 こんなに几帳面なのに、何故わざわざ新しいノートに貼り付けているのか。 その不器用さに笑えた。 「真咲、聞いとる?」 「ぜんぜん……」言葉と共にノートを胸に抱き締めた。 もーっ、と紗優は膨れるも、私の心には温かいものが流れる。 こんな私たちの間を風が吹き抜ける。 いい気持ちだった。 「和貴に任せっぱやったけど止めた。これからは遠慮せんよ」 紗優は歯を見せてニカッと笑う。 私もつられて微笑む。 それが、新しい学校生活の始まりの合図だった。
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