第二章 それは不幸なことじゃない

2/19
前へ
/662ページ
次へ
 家の前の通りに並走する国道を、駅方面に道なりに進み、駅に着くとバスロータリーを左に抜けて直進。  ローカルな名前の銀行の角を曲がればすぐそこだ。  母の手書きの地図をポケットにしまった。 「随分広いなあ……」  刑務所をなんだか彷彿させる高いコンクリートの塀を回り、独り言を呟く。広さは、東京ドーム一個分はありそうだ。校舎はどうやら三階建てで、ほとんどの窓が閉ざされ、ひとけも無い。盆でひとがはけているのは本当のようだ。  建物の概要を確かめながら、入り口を探す。長い塀を折れたところに鉄扉があり、玄関らしき入り口が見えた。門に警備員が居ないのはセキュリティ的にどうなのだろう。玄関前のスペースはどうやら駐車場であり、停められているのは軽トラと白いバンと白のカローラの三台のみ。  夏休み中の学校を訪れると、野球などのスポーツ部の練習が聞こえ、受験時は勉強妨害になったものだが、そういった練習の声や歓声は一切聞こえず、ここが廃校だと聞いても信じられるくらい、静かだった。  灰色の建物はところどころヒビが入っており、なんだか、色々と心配だ。  わたしが通っていた私立校と比べるとものすごく見劣りがする。  ――あすこは、テニスのクレイコートや広いプールがあった。  ここには砂地のグラウンドしか無さそう。 「失礼しまーす」  一応挨拶をしてから、玄関に入る。すのこ板が置かれ、靴箱は小さく区分けされたカラーボックスのような箱のみ。職員や来客用玄関なのだろう。茶色いスリッパが幾つか入っていたから適当に取り、履き替えた。  スリッパを履いたときに、素足で来たことを後悔した。  学校のスリッパってなんか不衛生な感じがするんだもの。  さて――目的地は職員室。玄関の正面のパネルによれば、校舎の角に位置するのがこの職員玄関。……ここから見て右手の廊下をずっと進めば左手に職員室が表れる、はず。  わたしは地図を回さないと読めない。  だからこの手の据え置きタイプの地図には非常に不便を感じる。
/662ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3158人が本棚に入れています
本棚に追加