第二章 それは不幸なことじゃない

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 誰もいないのをいいことに、パネルを横から覗きこむ奇妙な体勢になりながら解読する。廊下を真っ直ぐ行って左が職員室。廊下を真っ直ぐ行って左が職員室。廊下の左側に手を添え、呟きつつ目的地へ進む。  幸い、職員室へは一本道。一分足らずで表示が見えてきた。  入り口に立ち、ノックをすると、意外にもすぐ返事が帰ってきた。 「はーい」 「失礼します……」  ――職員室の眺めはどこも似たようなものだ。  雑然と並んだ灰色の机のうえに雑然と積み上げられた書類等の山。この学校が違うのは、廊下側の壁と対面する向こう側の壁に、緑いっぱいの庭を眺められる腰高窓がついているということ。――中々粋な作りだと思った。  この学校が唯一誇れるところがあるとしたら、あの庭だろう。  遠目にもちゃんと手入れされている。――さて。  担任の宮本先生を探そうにも、職員室は無人、……のはずはなく。先ほど答えてくれた男の先生がどこかに居るはずだ。耳をすませば、がさがさと新聞をめくる独特の音。扇風機の音も聞こえてくる。  右の間仕切りに、黒い影が透けて見える。  わたしは間仕切りの向こうに回り込んだ。  茶色い革のソファーに、中年と見られる男性が座っていた。 「こんにちは」 「ううん」えへん、とおじさんらしくそのひと――その先生だろうが、は咳払いをした。 「あの。すみません、宮本先生はどちらに――」 「ああ? 宮本先生? やったら生物室のほうにおるやろ」  おじさんは新聞がよほど面白いのかこちらに見向きもしない。  年季の入った便所サンダルは私物だろうか。  ところでわたしは生物室の場所がサッパリ分からない。  さっきのパネルのところに戻るのも、面倒だ。 「……あの。生物室はどちらに――」  そこで、ようやく新聞が畳まれた。
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