第二章 それは不幸なことじゃない

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 その先生はどういうわけか、わたしを見て口を開けた。  一秒、二秒。  三秒経った頃に、再びげふんと咳払いをし、「えーとどちらさん?」 「九月からこちらに転校する、都倉真咲といいます」  うえから下までを眺めて、「はあ」「そやったか」とぶつぶつと言う。――おじさんの、毎度のこの値踏みするような目線はなんなのだろう。あんまり、いい気はしない。  制服で来なかったのが失敗だったろうか。  改めて自分の服装を見た。――白と薄ピンクのギンガムチェックのワンピース。  ノースリーブ、というところがガキ臭かったろうか。  肩からポシェットバッグ下げてるところなんか、いかにも夏休み中の小学生な感じだし。  ――内田先生と名乗った先生は、「生物室やったら、こっから渡り廊下で向こうの校舎行って、三階の奥やぞ」と教えてくれた。  渡り廊下と向こうの校舎というニューワードが二つ。  果たして辿り着けるのか甚だ不安だがどうにかなるだろう。  と信じ、内田先生に礼を言い、職員室を辞する。  ――二度手間だがさっきのパネルの位置まで戻ることにした。急がば回れ。――校舎が二つもあるなんて情報読み取れなかったし、向こうの校舎に渡ればどうにかなるだろう、と思ったのだ。  壁にあたりなにかががさり、と音を立てた。  ――忘れていた。
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