第二章 それは不幸なことじゃない

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 かさばるこんな紙袋をなんで忘れていたんだろう。きっと緊張していたんだ。――母から、先生方に渡すようにとことづかっていた。  内田先生に渡そうと、急いで職員室に戻る。  入り口のドアが、わたしが開く前に開いた。  不可思議な現象。  と思ったときに、白いポロシャツが目に入った。  やばい、と思ったときにはぶつかっていた。  相手はどうやら男子。  鼻から思いきしぶつかり、バウンドしてわたしは後ろによろめいた。  ――転んだときには必ず手をつくのよ。  と母から教わっていたが、後ろにすっ転ぶときはどうしたらいいのだろう。  などと振り返っている間に、尻もちをついた。お尻も鼻もものすごく痛い。反射的に鼻を押さえたままわたしはうずくまった。きぃん、と頭が痛む。さっきまで左手に持っていた紙袋はどうなったろう。中身がおじゃんかも。  相手の男のひとは動かなかった。使い込んだ感じの、白地に青のズック。――紺色のツータックパンツは明らかにここの制服。生徒だ。何年生だろう。  鼻を押さえたままなにげなくうえを見やると、  ――息が止まりそうになった。
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