第二章 それは不幸なことじゃない

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 高校生とは思えぬ冷徹な眼差し。理知的な印象を与える銀縁の眼鏡。アシンメトリーな前髪が、顔の端正さを増幅させる。  例え不快げに眉を歪ませていようとも、黒髪のそのひとは綺麗だった。  男のひとに『綺麗』という形容は不似合いかもしれないが、例えるなら歌舞伎俳優のような綺麗さだった。  小さく『あ』の形に開いていた唇が、動く。 「――なんだ? 中学生か?」  随分と低い声。と、そんなことより、  ――中学生認定? 「ちょ、」言いながらわたしはようやく立ち上がった。スカートを払い、慌てて近くに落ちていた紙袋も拾う。「ちゅ、中学生って」 「――違うのか」  凛、とした声が答える。  聴き惚れそうになる。――場合じゃなく。  なにか言い返そうと顔を見上げると、角度がえらいことになった。  ――祖父より背が高い。 「違います」  きっと睨んだつもりが、静かに見返されると胸がどきどきし、……てる場合じゃなくって。  気を強く持とうと拳を握ったそのとき、 「どしたの? マキ?」  別の声が割って入った。  ――もう一度すっ転んでもおかしくはなかった。  だって、また別の美形が登場したから。
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