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高校生とは思えぬ冷徹な眼差し。理知的な印象を与える銀縁の眼鏡。アシンメトリーな前髪が、顔の端正さを増幅させる。
例え不快げに眉を歪ませていようとも、黒髪のそのひとは綺麗だった。
男のひとに『綺麗』という形容は不似合いかもしれないが、例えるなら歌舞伎俳優のような綺麗さだった。
小さく『あ』の形に開いていた唇が、動く。
「――なんだ? 中学生か?」
随分と低い声。と、そんなことより、
――中学生認定?
「ちょ、」言いながらわたしはようやく立ち上がった。スカートを払い、慌てて近くに落ちていた紙袋も拾う。「ちゅ、中学生って」
「――違うのか」
凛、とした声が答える。
聴き惚れそうになる。――場合じゃなく。
なにか言い返そうと顔を見上げると、角度がえらいことになった。
――祖父より背が高い。
「違います」
きっと睨んだつもりが、静かに見返されると胸がどきどきし、……てる場合じゃなくって。
気を強く持とうと拳を握ったそのとき、
「どしたの? マキ?」
別の声が割って入った。
――もう一度すっ転んでもおかしくはなかった。
だって、また別の美形が登場したから。
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