第二章 それは不幸なことじゃない

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「知ってんのか? 誰の妹だ」 「さあ?」と言って背の高い彼を振り仰ぐ。「僕もねーこんなちっちゃくてかわいー妹が欲しかった。羨ましいよ」 「居たらロリコンだったろうがな」 「シスコンの間違い。……マキってときどき単語に弱いよね」ちょっと呆れ顔をしてから俯く。「……んでも。仮に妹居たとしたらさあ、美少女姉妹とか絶対言われんだ。それもやだ」 「普通自分で言わねえよ」 「たまに間違われるからね、いまだに」 「女装、似合うんじゃねえのか。学祭のネタとしてひとつどうだ」 「ちょ、まじで、勘弁してよー」髪をわさわさとかき回す茶髪の彼と、突き放す黒髪の構図に、完全に突っ込むタイミングを見失ったわたしがぼうっと立っていると。 「おまえら。さっきからなーにを騒いでおる。ここは職員室だぞ」  ……三人とも職員室から廊下に出ているのだが、職員室の戸は開きっぱなしで、内田先生の怒りを買ったらしい。    どやしつけるつもりで出てきたろう内田先生は、わたしの姿を認めると、ん、ああ、と思い出したようにぼやき、 「ちょーど良かった。――おまえらのクラスに編入する、都倉や。一緒のクラスなんねんから仲良ぅしたれや」  ――髪の黒い彼はやや眉を歪めた程度でさほど表情に変化は見られなかったが、茶髪の彼はあーんぐりと口を開けた。  わたしはそんな彼らに対し。 「二年四組に編入する都倉真咲といいます。――よろしくお願いします」  ――こんな笑顔が出るのかと恐ろしくなるくらいの営業スマイルで微笑んで見せた。
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