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近くの踊り場に着いた所で茶髪は足を止めた。
「ごめんね。紹介するのが遅れちゃって。僕は桜井和貴(さくらい かずき)。彼は、」
「蒔田一臣(まきた かずおみ)」
黒髪は目を伏せたままだ。
「蒔田のことは、マキって呼んでんだ」
屈託なく笑う茶髪。整った顔立ちにもどぎまぎさせられる。
直視を回避して周囲を見回すと、いやに人が通らないことに気が付いた。
まさか、学校の中も過疎なのだろうか。
受験生らしき姿は見当たらない。二年生である彼らはガラガラの校内には不似合いであり、
「二人は、部活か何かで来てるの?」
ふと出た疑問を口にすると、黒髪の顔に瞬時影がよぎる。
両親の顔色ばかり窺って生きてきた私には、それが見えてしまった。
「あ……図書室でべんきょー」
階段に足をかける茶髪が後ろ見で微笑むと、可愛らしい八重歯が覗いた。
「あれが、生物室」
三階に着くと、黒髪の彼が長い廊下の奥を指差した。
この人は、あんまり感情を込めない一本調子の話し方をしている。見た目通りクールな人なのだろうか。
「みやもっちゃん、元気してるかな。僕たちも行ってみようぜぇっ」
茶髪が脱兎のごとく走り出す。
足が、速い。
物凄く速い。
足の蹴り返しが綺麗で、紺のゴム底が何度も見えた。
私は彼に続いて走り出しもせず、ゆっくりと歩いていた。スリッパだし。
黒髪も茶髪と一緒に走ることはなく、彼と二人、取り残された。
何だか、気まずい。
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