第二章 それは不幸なことじゃない

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「……出身は」 ぼそっと声が聞こえた。 聞き違いかと思ったが、黒髪の唇は薄く開いている。 「えっと。わ、私の?」 まさか、話しかけられるとは思っていなかった。 茶髪の走りを見据えたまま、黒髪は無言で頷くも、 「どうして、ここの人じゃないって分かったの」 質問の意図が分からない。 彼は私を知らないのだろうか。親が離婚して都落ちしたこと。光る君さながらに、片田舎へと飛ばされたということを。 源氏は再度都に戻り栄華を極めるが、私が東京に戻り住むことは……起こり得ない。片親の郷里に身を寄せるのが金銭的にどういう意味を持つのか、多少は分かっているつもりだ。 「訛ってねえから」 首が少し痛くなるくらいの角度が必要。 それでも、涼しげな彼の横顔から目が離せない。 「俺も生まれはこっちじゃねえ」 「そうなんだ」 「和貴もだ。あいつは、無理に標準語を喋ろうとはしてるんだが、じいさんは俺にも分からねえくらいの方言らしい。移りたくねえってぼやいてやがる」 「ふふっ」何だか笑えた。 「だが、じいちゃん子でな。たまに真似しやがる」 「どっちなのよ」 「両刀使いなんだ。器用な奴だよ」 茹でだこのように真っ赤になったのが自分でも分かる。 「ちょっとそれはあの、外では言わない方が……」 「何をだ」 「……」 会ったばかりの人に意味を説明しろと。無理。 「あいつには親がいねえんだ」 流れを無視して黒髪は呟いた。 「仲がいいんだね」 足のコンパスの違いか、いつの間に一メートル先を行っていた黒髪。ぴたりと足を止める。 「何故そう、くる」
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