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「……出身は」
ぼそっと声が聞こえた。
聞き違いかと思ったが、黒髪の唇は薄く開いている。
「えっと。わ、私の?」
まさか、話しかけられるとは思っていなかった。
茶髪の走りを見据えたまま、黒髪は無言で頷くも、
「どうして、ここの人じゃないって分かったの」
質問の意図が分からない。
彼は私を知らないのだろうか。親が離婚して都落ちしたこと。光る君さながらに、片田舎へと飛ばされたということを。
源氏は再度都に戻り栄華を極めるが、私が東京に戻り住むことは……起こり得ない。片親の郷里に身を寄せるのが金銭的にどういう意味を持つのか、多少は分かっているつもりだ。
「訛ってねえから」
首が少し痛くなるくらいの角度が必要。
それでも、涼しげな彼の横顔から目が離せない。
「俺も生まれはこっちじゃねえ」
「そうなんだ」
「和貴もだ。あいつは、無理に標準語を喋ろうとはしてるんだが、じいさんは俺にも分からねえくらいの方言らしい。移りたくねえってぼやいてやがる」
「ふふっ」何だか笑えた。
「だが、じいちゃん子でな。たまに真似しやがる」
「どっちなのよ」
「両刀使いなんだ。器用な奴だよ」
茹でだこのように真っ赤になったのが自分でも分かる。
「ちょっとそれはあの、外では言わない方が……」
「何をだ」
「……」
会ったばかりの人に意味を説明しろと。無理。
「あいつには親がいねえんだ」
流れを無視して黒髪は呟いた。
「仲がいいんだね」
足のコンパスの違いか、いつの間に一メートル先を行っていた黒髪。ぴたりと足を止める。
「何故そう、くる」
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