第二章 それは不幸なことじゃない

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よほど驚いたのか、目を丸くしてこちらをガン見してくる。視線が痛い。 「何故って言われても。寡黙そうなのに、彼の話になると饒舌だから。きっと、優しい人なんだろうね」 「俺がか?」 ますますきょとんとする彼に、 「違う、彼の方」 込み上げる笑いを手で隠しながら、遥か先を行く茶髪を反対の手で指す。 二人ともなにしてんの。 僕三往復しちゃうよー。 当の本人はぶんぶん両手を振っている。既に生物室前に着いて退屈なご様子。 ……可愛いかも。 「高校からの付き合いなんだが」 黒髪が歩き出すので、私は慌てて足を動かした。 「もっと長い付き合いに見える。何となく」 「そうか」 「私も父親はいないから、人前で明るく振舞う気持ちはよく分かる」 「……お前は母親と住んでんのか」 「母と、母方の祖父母と」 「そうか」 この人、可哀想という顔はしないんだ。 眉一つ動かさない黒髪の彼に、何だかほっとした。
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