止まらぬ激情 抑える熱情

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震えの混ざる声音に戸惑いを隠せない。 「情け無い、なんて…思ってないよ。」 引き寄せた腕の力を抜けば、具(ツブサ)に開く身体の距離。 真っ直ぐ見下ろしてくる瞳は、さっきより数倍辛そうで……今度こそ泣いてしまうんじゃないか、と思えた。 「でも、貴女は私の苦悩する姿が見たくなくて、こんな馬鹿な事を思い付いたのでしょ? 正に、文字通り『慰みモノ』になろうなどと…」 優しい手付きで前髪を払う仕草に、私の方が泣きたくなった。 「私はね、沙羅。何時でも、誰にでも、礼を持って誠心誠意、真心を尽くし向き合ってきたつもりです。 そして、此の真心は 何時の日にか必ず相手に伝わるものだ、と信じてもいます。」 真心、か。 センセイらしい言い方。 その真心…少なくとも、私には伝わっていると思うよ。 ただ、私の理解力が乏しいだけで… フッと、零れた自嘲の笑みを目の前の人が見逃す筈もなく。 クスッと、困った様に眉根を寄せながら苦笑で返してきた。 「己の不平不満や欲の捌け口として、その様な行為をする気は 毛頭ありませんよ…」 「そっか…」 「そうです。私をそんな情け無い男に成り下がらせないで下さい。」 「センセイは立派だね。…立派過ぎてムカつくよ。」 「沙羅、…済みません…」 「いやいや…此処で謝られたら、真面目に私が振られたみたいで格好悪いから止めてくれる?」 アハハッと、乾いた笑いで自分の短慮を誤魔化そうとすれば… ギュッと。 それまで開いていた筈の距離が再びゼロになる。 「……我慢する方の気も知らないで。」 耳許に寄せられた唇が動く度に耳朶(ミミタブ)も揺れて擽ったい。 「惚れた女に誘われて嬉しくない男なんか居ません。 でも、私は貴女が同情でなく、本心から求めるまでは……抱きません。」 この人は、私の為に我慢してたんだ… 「……ごめん、センセイ。」 コレが『愛情』っていうのかな…
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