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医者に為りたい、という商家の少年に男は問う。
『何故、商人ではいけないのです?』
少年は……
『商人は、いつも人に頭を下げ、諂(ヘツラ)わなければいけない。そんなのは嫌です。』
と、答える。
不貞腐れた様に語った少年に目を細めると、男はゆっくり口を開く。
『医者も諂うのは一緒ですよ?』
少年は やはり不服そうだ。
『でも、人は医者には頭を下げるじゃないですか。』
尚も食い下がる少年に 男は苦笑した。
『それは医者が人の命を預かる立場だからです。
君が人の為になる商いを行えば、人は君に頭を下げると思いますよ。
そうやって、君が日本の商人を変えていけば良いんじゃないかな。』
少年の意識が変わる瞬間だった。
そんな少年を男……吉田 松陰は、満足そうに見ていた。
「先生、有り難う御座いました。」
「いえいえ、君が自分で導き出した答えですよ。」
「私は、この日の本一の商人になります。」
「えぇ、君なら出来ますよ。」
迷いが消えた様に爽やかな笑顔を湛え、少年は帰って行った。
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