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 財産を使い果たし家も着物も売り払い、それでも通いつめた男は、銭も用意できないのに女を抱いた。それが店主に知られ、酷い暴行を受けた。その後遺症で右足を引きずって歩く事になったが命が助かっただけでも良かった。 「で? なんて書けば良いんだ?」 「ふふ。『貴方を思い出すと、私の蜜は溢れ、髪は乱れて、その指を』――……」 「待て待て。それでは恋文ではないぞ。もっと品が良く、知識がある文を考えろ」 「――それは、代筆屋の貴方の仕事じゃないんでやんすか?」  女は乱れた服を正し、薄くなった紅を小指で塗り直しながら、妖艶に笑う。 「僕が書いたら、先程の行為を徒然と書いてしまいそうだ」 「おや、まあ」 ふふふと女は笑うと、墨を溶く男の肩に寄り添った。そして甘く猫なで声で、耳元へ話しかける。 「お願いがあるでありんす」 「お願い?」 「――貴方しか、無理なお願い」 「金はあるのか?」 「お金なんて貴方は取れない子だよ。胡蝶様が呼んでるんだ。客のふりして会いに行くでありんす」 「胡蝶……」 その名前を聞いた男は目を見開いた。
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