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 情報保全部、柳瀬波光(やなせなみてる)の部屋は通常なら将官クラスが使用するという最上階のスイートルームだった。タツオはケヤキの一枚板のドアをノックすると直立不動で待った。  保全部員はドアの隙間(すきま)から剃刀(かみそり)のような鼻をのぞかせて命じた。 「入りなさい」 「失礼します」  敬礼をして腹の底から声を出す。まだ卵とはいえタツオも進駐官である。  二十畳はありそうな広々とした応接間だった。バルコニーのむこうにはヤシの木のシルエットが見える。階下からプールサイドの歓声が聞こえてきた。なぜ、女子はプールではあんなに高い声をあげるのだろうか。柳瀬波光は白い軍服姿で麻のソファに腰かけ、高々と足を組んだ。タツオは勧められて正面に座った。この男の前にいると、ひどく落ち着かない。 「先ほどは邪魔(じゃま)をしたようだな。瑠子(るこ)さまときみはどういう関係なのだ?」
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