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濡れた路面を蹴る タイヤの音だけが響く 月の輝く 夜の細道 君を家まで 送ったあとの メランコリックな香りは かなりスモーキー ケムにまくように 笑顔とキスで 君は去っていきました 残り香は 俺と同じ 銘柄の タバコだから ルームミラーから 遠ざかる 街灯の下で おおげさに 手を振る姿が 見えなくなったとたん 今までのことが 何もなかったことになる そんな気がした カーステから流れる 聴き慣れた 曲でさえ 今夜はちっとも 口ずさめずにいる 沈んだまま くぐり抜ける 最後の高架下 明日の朝 目覚めても 隣にあの 無邪気な寝顔はない それでも俺は 明日も俺は やがては褪せる 美しいだけの 記憶を 抱きしめながら 生活を送るのです 会える約束よりも 会えぬ予定が カレンダーを 埋め尽くす ヘッドライトでは 照らし出せない 未来 指折り数えることも 許されず また会う日まで 気休めの 別れ際の セリフの意味など 忘れたいのに 追いかけて アクセル 踏み込み ひた走る 君に会える その日が来るまで
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