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とりあえず警察に電話し、女の子は保護された。家の中を探したが、母子手帳なども見当たらず、身元がわからないらしかった。
かすれた声で、女の子は自分を「雛菊」と名乗ったそうだ。雛菊は、施設へ預けられた。
「またいらしてくださったんですね」
施設の係員が言う。
柴崎はどうも気にかかって、あれから何度も施設を訪れていた。
「どうぞ」
係員はなれた手つきで中へ通す。
柴崎は雛菊に面会するわけではなく、ただ遠くから眺めるだけだった。
「不思議な子ですよね」
係員が言う。
「母親が存在しない。そしてあの白髪。髪や肌が真っ白になる、アルビノっていう病気かとも思ったんです。でも病院に行ったら、違うということがわかって。ほら、肌は他の子と変わらないでしょう?」
「そうですね」
柴崎が続けて言った。
「…優しい子ですよ」
言った自分が、その言葉に一番驚いていた。そういう形容を、誰かにしたことは、今まで無かった。
「あの状況で、食べ物は喉から手が出るほど欲しいものであったはずなのに、あの子は死んだ犬に与えていたんですから」
ホールで遊ぶたくさんの子供の中から、雛菊を見つけた。窓のそば、バランスボールに寄りかかり、宙を眺めていた。
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