第一章

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とりあえず警察に電話し、女の子は保護された。家の中を探したが、母子手帳なども見当たらず、身元がわからないらしかった。 かすれた声で、女の子は自分を「雛菊」と名乗ったそうだ。雛菊は、施設へ預けられた。 「またいらしてくださったんですね」 施設の係員が言う。 柴崎はどうも気にかかって、あれから何度も施設を訪れていた。 「どうぞ」 係員はなれた手つきで中へ通す。 柴崎は雛菊に面会するわけではなく、ただ遠くから眺めるだけだった。 「不思議な子ですよね」 係員が言う。 「母親が存在しない。そしてあの白髪。髪や肌が真っ白になる、アルビノっていう病気かとも思ったんです。でも病院に行ったら、違うということがわかって。ほら、肌は他の子と変わらないでしょう?」 「そうですね」  柴崎が続けて言った。 「…優しい子ですよ」 言った自分が、その言葉に一番驚いていた。そういう形容を、誰かにしたことは、今まで無かった。 「あの状況で、食べ物は喉から手が出るほど欲しいものであったはずなのに、あの子は死んだ犬に与えていたんですから」 ホールで遊ぶたくさんの子供の中から、雛菊を見つけた。窓のそば、バランスボールに寄りかかり、宙を眺めていた。
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