第一章

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寒い。八月が過ぎていったとたんに、今までのうだるような暑さで暖め疲れたのか、街は一気に寒くなった。もう少しまんべんなくやることを知らないのだろうか。これでは冬が心配だ。 不満を心の中で吐露しながら、柴崎はバイクを走らせる。まだまだ郵便物はたくさんある。早く届けて帰らなければ。 あるアパートの前でバイクを停める。階段を上って二階のいくつかの部屋の前を通りすぎていく。 ふと、足を止めた。 204と書かれたプレートがつけられた部屋から異臭がしたのだ。何の臭いかわからない。 とりあえず、柴崎は用のある隣の部屋のチャイムを鳴らす。部屋の人はすぐに現れた。 「お荷物です」 「あら、どうもありがとう」 40代くらいの女性が、にっこりと笑って荷物を受け取った。 何かの気まぐれだったのだろうか。普段は全く気に止めないのに、その日はなぜか気になった。 「…あの、隣の部屋って、誰か住んでますか?」 「ああ、お隣?男の人が住んでたんだけどね、めっきり見なくなっちゃって。遊び呆けているんじゃないかしら。嫌な臭いするし、ちゃんとしてほしいわ」 「そうですね」 そう言って、柴崎は部屋をあとにした。 204号室が気になったが、仕事がまだ残っているので、その部屋の前を通りすぎ、階段を下りた。
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