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一ヶ月ほどたって、柴崎はまた配達であのアパートを訪れた。
今日、用があったのは一階だった。
しかし、あの部屋が気になったため、柴崎は204号室へ向かった。
扉の前に立つ。やはり、異臭がした。
チャイムを鳴らす。しかし、誰も出てこなかった。
柴崎は、最悪の状況を想像した。この部屋に住んでいた男というのが、中で死体となっているのではないかと思ったのだ。
近頃、孤独死やら何やらで人が死ぬニュースが放送されていたからだ。
恐る恐る、ドアノブに手をかけた。覚悟を決めて、ゆっくりとドアを開く。異臭が、よりいっそう強く感じられた。
「すみません、誰かいますか」
柴崎は部屋の中に向かって声を張った。
誰の声も聞こえてこない。しかし、ちょうど畳の上を動いたような、布と擦れる「ざっ」という音が聴こえた。
誰かがいる。
柴崎は玄関に入り、靴を脱いで部屋にあがった。
奥へ進む。臭いが増す。
まずあったのは茶の間。ごみ袋がそこら中にあり、もう何日も掃除されていない様子だった。
その隣に畳の部屋があり、扉が少しだけ開いていた。ゆっくりと開く。異臭はここからしているようだった。
「……あ」
異臭の原因が、今やっとわかった。
その回りには、供えるようにお菓子やら何やらが置いてあった。
「ずっと、ここにいたのか…」
そこにいたのは、現実離れをした真っ白な髪を持つ、ガリガリに痩せた少女と、傍らに横になった、原形を無くし始めた、腐った犬の死体だった。
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