第3幕

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私が受け持つ声楽の授業と、岸谷先生が受け持つ絵画の授業を、 「一度合同でやりませんか?」 ――そんな提案されたのは、5月に入ってすぐのことだった。 「合同って……音楽と美術を、ですか?」 正直、その意図がつかめなくて戸惑った。 歌は、絵を描く時には邪魔になるんじゃないだろうか。 静かなところで視覚だけに集中するようなイメージがある。 それ以前に、音楽と美術で教える内容に共通点などあるんだろうか。 合同で授業をすることに、一体どんな意味が? そんな疑問が、顔に出ていたのかもしれない。 彼は気まずそうに頭を掻いた。 「いや、正確に言うと、こちらがやらせていただきたいのです。音楽科のプラスになることがあるのかどうかは、正直僕には分かりません」 1時限目の授業時間、教師陣も出払った職員室はやけに静かだった。 互いに次の授業の準備も終わった後の、ちょっとした空き時間だ。 「歌っているところを、描かせていただきたいんです」 「ええと、それは……、人物画のモデル、という意味ですか?」 「いえ、そうではなく。――描くのは人ではなくて、ですね。『歌』の方なんです」 ――本格的に、意味が分からなくなってきた。
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