519人が本棚に入れています
本棚に追加
/297ページ
「陶芸を見に、と仰いました?」
絵から話を逸らしたのは、見てきた絵について感想でも聞かれたら困ってしまうから。
その分野を専門にしている人に、あまり抽象的で感覚的なことを言うのは恥ずかしかった。
「ええ、それ以外も見ますが。やはり創作に携わる者としては、違うジャンルにも興味があります」
「そう……なんですか。確かにあのビル、いろんなジャンルを展示しているみたいでしたね」
軽い相槌を打っただけのつもりなのに、彼は少し首を傾げて考え込む。
不思議に思っていると、岸谷先生は
「笹本先生はまだお若いから――、詳しくは、ご存知ないかもしれませんが」
と真面目な顔で言った。
28を『若い』と評されたことに対して、反応を示すべきなのか迷った。
けれど実際彼の方が年上だし、真剣な表情だけに、余計な口を挟むのをやめて続きを待つ。
「この街にああいう芸術文化のための施設が充実していたり、芸術に対して市民の関心が高いのには理由があるんですよ」
「理由……ですか?」
「そうです。この街の古い歴史です。僕も生まれる前の話なのですが」
岸谷先生は、そこでぷつりと言葉を切る。
それから苦笑いを浮かべ、「面白い話でもないですから」と話を打ち切ろうとした。
最初のコメントを投稿しよう!