第3幕

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「陶芸を見に、と仰いました?」 絵から話を逸らしたのは、見てきた絵について感想でも聞かれたら困ってしまうから。 その分野を専門にしている人に、あまり抽象的で感覚的なことを言うのは恥ずかしかった。 「ええ、それ以外も見ますが。やはり創作に携わる者としては、違うジャンルにも興味があります」 「そう……なんですか。確かにあのビル、いろんなジャンルを展示しているみたいでしたね」 軽い相槌を打っただけのつもりなのに、彼は少し首を傾げて考え込む。 不思議に思っていると、岸谷先生は 「笹本先生はまだお若いから――、詳しくは、ご存知ないかもしれませんが」 と真面目な顔で言った。 28を『若い』と評されたことに対して、反応を示すべきなのか迷った。 けれど実際彼の方が年上だし、真剣な表情だけに、余計な口を挟むのをやめて続きを待つ。 「この街にああいう芸術文化のための施設が充実していたり、芸術に対して市民の関心が高いのには理由があるんですよ」 「理由……ですか?」 「そうです。この街の古い歴史です。僕も生まれる前の話なのですが」 岸谷先生は、そこでぷつりと言葉を切る。 それから苦笑いを浮かべ、「面白い話でもないですから」と話を打ち切ろうとした。
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