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「な……な……?」
一方、その強烈な一撃で崩れ落ちたままの〝標的〟たる少女は起き上がることもせず、目を白黒させてこちらを見上げていた。
突然の出来事に驚いたのだろうが、その様子がどこか可笑しく、俺は笑いを禁じ得なかった。
「……はっははは! なんて顔してんだよ!」
「な……!」
「どうした、さっきから『な』しか言えてないじゃないか、くくくっ……!」
笑う俺を見て、正気を取り戻した少女の表情が徐々に呆然から羞恥と怒りを込めたものに変わっていく。
そろそろか。
日頃から培われた経験と勘がそう告げる。それゆえに、俺は表面では笑い続けながらも、少しの警戒心を持ち始めた。
「よ、よくも……バカ谷ーッ!!」
まさにその直後、怒号の爆発と共に立ち上がった少女が、立ち上がる途上でごく自然に加えていた体の捻りを利用し、回し蹴りを叩き込もうとしてきた。何の警戒もなく笑い続けていたなら決して避けられなかっただろう威力で放たれた蹴りは、足元の砂埃を後塵として纏い、一直線に俺を狙う。
無論、避けられないだろうというのは警戒をしていなかった場合の話。
少女にとっては不運なことに、俺はいつもの少女の行動パターンから次の挙動を完全に先読みしていた。体の力を抜いて後方に体重を移動させ、防御に必要な僅かな間合いを作り上げると、回し蹴りの軌道と交差するように腕を動かす。
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