AM10:00

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        【1】  全てはこの日の為に用意された道程だと言えるだろう。  三組の男女が舞台の上で舞う舞踏会、漆黒の衣装に身を包んだグランドピアノと、ジャズピアニスト好岡朔耶。  右手と左手。  高音と低音。  この三組の男女は、今宵奏でられる曲の為に練習を積んで来た。 初めて興味を持った音楽、憧れの奏者、憧れの曲、初めて触れたピアノ、初めて舞った白と黒のステージ、練習の日々、決して平坦な道程では無かった。  三組が競いながら、互いを高め合う、共演と競演の饗宴。  それが今、人生で一番の大舞台が披露される時が訪れたのだ。  舞台下では、この日の為にコンサート会場に集まった音楽通の老若男女に、好岡の生徒や友人が彼女の登場を心待ちにしている。  舞台の証明が消え、会社に夜が訪れた。  緊張感が一気に高まり好岡の躯を駆け巡る。脳まで達し、支配されそうになるが、深呼吸。迷いを吸い込み自信を吐き出す。大丈夫。落ち着いて、自分を信じるのよ朔耶――。  言い聞かせて、一歩前へ。
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