後編

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「あ、あの」とようやく声を絞り出したのは、香代ちゃんで、「夜分遅くすみません」と謝ったのはえびっちだった。 「夜分遅くすみません。私たち、百代さんの友達で…」 えびっちが言い終わる前に、男は、「も、も、よ?」とくぐもった声で呟いた。 開いた唇にねっとりと糸が引いている。男は徐々に顔をほころばせ、不気味な笑顔を覗かせた。 「百代ですか?はいはい、今呼びますから。おーい百代ぉ。もも?お友達だぞ?」 さっきとは別人のように生き生きした声で、彼は自らの背後に伸びた階段の闇に向って叫んだ。 死んだはずの人間を呼んでいる。 その異様な光景に私たちはいっそう震え上がった。 男は、なおも「ももよ」と繰り返している。恐がりのあんたんが、「逃げよう」と囁いたとき、真っ暗だった玄関にぱっと明りが灯り、見覚えのある顔がゆっくりと階段から降りてきて、私たちは救われる思いがした。
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