prologue

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「それにしても九条さんが、ラファエル前派なんて珍しい」 「ああ、うん……」 僕は言葉を濁したまま 画集をペラペラと捲ってゆく。 「ああ、これだ」 とあるページで――。 「トーマス・ディクシ-ですか?そんなに有名な画家でもない」 僕の心臓は 毒の花の香りを吸い込んだ時と同じように――ドクンと脈打った。 「似てるんだ。彼の描く少女の絵――僕が今夢中なお相手に」 部屋に友人を呼びつけておいて 僕はいったい何言ってるんだろう。 もう26だ。 頭では分かってる。 だけど人は本気で恋すると 馬鹿だと分かっていながら まるで熱に浮かされたように 誰かに話したくて仕方なくなる。
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