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「そうですか。きっと凄く美しい方なのですね」
「ああ。僕はね、春人くん――理想は理想、夢は夢だと思っていた。けして現実と混同した事はなかった。その人に会うまでは」
「その方には境界線がないと?」
「ああ。自由に行き来する僕の理想と現実を」
「それは九条さん――」
春人は世を悟った哲学者のように頭を振ると
「あなたがその方だけに、それをお許しになっているからですよ」
クスリ笑った。
「しかしその方、お幸せな方ですね。あまたの女性が求めてやまない九条敬の寵愛を独り占めなさるなんて――」
「大袈裟だよ。寵愛なんて。僕はただ――」
僕はただ
愛する者を愛しすぎてしまう傾向にある。
「――溺愛。悪い癖だ」
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