第1章

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 それはサクラの高等戦略ではなく、もし予想が外れたらそのことを知られるのが嫌という、しょうもない見栄からなのだが、サクラの予想と何を考えているかは、FBI本部で行動分析班のチーフをしていてサクラの事を知っているアレックスには漠然とだが分かる。 『まだ推測の域だが、俺もここ数時間の経過をみるに一つの可能性に思い当たった。恐らくサクラの考えも同じだろう。結果が出たら君に連絡するが、その時は日本での情報追跡が必要となる。セシルとJOLJUを使って捜査してくれ』 「JOLJUが必要になる事態なのか」 『俺の経験だ。戦闘やエイリアンに関しては君が上だが病理学系や細菌兵器、人間行動心理は俺のほうが経験値は上だ。まだ推測だが、それであれば理屈は成立する。しかしあくまで推測だから君への報告はその時で構わないか?』 「構わん。今は俺も目の前の事案を優先させたい」 『また連絡する』  こうして彼らの情報交換は終わった。ユージは携帯を懐に戻すと時計を見た。  ……新しい車を待つ時間は惜しいな……  どうせここは台場で駅は1キロも歩けば着く。後は電車で移動したほうが早い。 「まさかすぐに第二弾はないだろう」  少しだけ気になることがあるとすれば手持ちのDEの弾が少ない事だ。この戦闘で44マグナムを半分以上使ってしまった。NYだと愛車に予備弾を積んであるがここは日本で、当然44マグナム弾が日本警察にあるはずなく、荷物はJOLJUに預けたままだ。とはいえバックアップにH&K USPCと38口径リボルバーがあるからよほど大規模な襲撃をされないかぎり大丈夫だろう。 「じゃあ車はテレビ局のほうに回しておいて近くまできたら連絡下さい」  ユージは、原に駅の場所を聞き歩き出した。今のベネットの話が本当であればしばらく襲撃はないだろう。未だ呆然としている原を残し、ユージは歩き出した。  紫ノ上島 午前10時30分。  拓、サクラ、飛鳥の三人を除き全員が束の間の休息を取っていた。  緊張しっぱなしの徹夜明け、そして確保された一時の安全…… 熟睡している者もいればとりあえず目だけは閉じ休息している者それぞれだが、静かに体を休め体力を取り戻そうとしていた。唯一休養の必要のない三人だけが、今この紫ノ上島で動いている。拓、サクラ、飛鳥の三人は、今日の13時やってくる<死神>大量上陸をどう阻止するか、だ。
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