企画書

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「えっと、学習の狙いは・・・。」 ・・・またすぐに行き詰まる。 こういうのは吉良君の方が得意なのだが、彼も帰ってしまった。 彼は親が厳しく、塾や習い事をあれこれやらされてる。 気弱で時間的余裕もない吉良君は、間違いなく学級委員には向いてない。 リーダーにもなれなければ、準備に専念して陰からクラスを支えることも出来ないのだ。 事実、彼が学級委員として役に立ったことなんて、過去に数件程度しか―― ダンッ!! 私は机を叩いた。 吉良君を責めちゃってる自分に腹が立った。 彼だって被害者なのに。 「あー、もー・・・。」 気づけばペンは完全に止まり、顔が歪んでいる。 思い付くままに書き足していったら、何が言いたいのかわからなくなっていた。 私は一度やり直すことに決めると、消しゴムを求めて筆箱を漁る。 その途中―― 「あ。」 目にとまったのは、花崎先生に先日返してもらったもの。 私はそれを、何となしに手にとった。 ・・・カチッ ・・・カチッ 呆然と眺めながら、少しいじってみる。 それから私は、教室を見渡した。 当たり前だが、誰もいない。 そうだ、今なら―― 「先生・・・。」 先生は、してもいいよって言ってた。 だから返してくれたんだ。 この、微かに赤い染みの付いたカッターを。 カチカチカチカチッ 私は意を決すると、刃を一気に押し出した。 ピンと伸びた銀色が、傾きはじめた日の光を弾いて私の目に投げ込む。 それに怯む間もなく、私は左手に刃を向ける。 その瞬間に頭を過ぎった、真っ赤になった左腕。 それは、私が初めて先生と会った時の記憶だった。
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