13人が本棚に入れています
本棚に追加
以前それをした時、思っていたよりも血がたくさん出て、私は慌てて保健室に駆け込んだ。
怒られるかと思ったけど、先生は何も言わなくて、
優しく止血した後、何か嫌なことがあったのかって聞いてくれた。
その時、私は心の中に溜め込んでいたドロドロしたものを、初めて口から吐き出した。
先生はそれを、最後まで親身になって聞いてくれて――
「天根。」
「はい。」
「このカッター、預かってもいいかな?」
「え?」
「切っちゃいけないとは言わない。
切りたくなったら、いつでもここに来て切ればいい。
だけど、切りながらでもいいから、俺に聞かせてほしいんだ。
君が困ってること、悲しんでること、恨んでること、君を苦しめてることの全部を。」
「先生・・・。」
「約束するよ。
俺は逃げない。
天根が卒業するまで、ずっと天根を支える。
だから、一人で背負わないで。」
「先生。」
カッターを手首に宛がった途端、そんなことを思い出した。
そうだ、あの時。
あの時を最後に、私は手を切らなくなったんだっけ。
切りたくなることは何度もあったけど、カッターを取りに行けば先生に会えて、先生に話すとスッキリする。
そうやって、私は支えられていた。
切ることをやめて生きてきた。
「・・・やめた。」
思い出したら、なんだか気持ちが穏やかになった。
切って大事になったら面倒だし、先生に心配をかけるのも嫌だ。
私はカッターを筆箱に戻し、今度こそ消しゴムを手に取った。
さ、早く企画書をあげなくちゃ。
最初のコメントを投稿しよう!