第1章

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毎日、時間を見つけては図書館にパソコンを持って通い、時間の許す限り小説の神が降りてくるのを待つ。 そして、様々なくだらないアイデアを書いては捨て、書いては捨て、最終的に何も保存することなく図書館の閉館時間を迎える。 そして今日、なんでもいいから書いてみようと書いた一言。 『書けない豚はただの豚だ』 まず、これはパクリだ。 何にもならないし、それどころか盗作で訴えられてしまう。 訴えられるようなことになるほど、人に見てもらう機会もないだろうが。 図書館の中では蛍の光がながれている。 遠回しに、いい加減帰れと言われているようで恥ずかしかった。 友作は仕方なしに荷物をまとめ、使い古したバックパックを肩から下げて歩き出す。 図書館員には間違いなく顔を覚えられている。 なぜなら、向こうから話しかけてくるからだ。 この図書館に勤務する林は、友作の親と同じくらいの歳、五十代のおばさん。 帰ろうとする友作に笑顔で駆け寄ってきて、明るい口調で話しかける。 「友作君、今日は何か書けたの?」 「いえ、なかなかいい考えが浮かばなくて……」 「あら、そうなの……。 今は何についての論文を書いてるんだっけ?」 林は、友作が小説を書いているとは知らない。 書き物のために資料を探していると言って、一度手伝ってもらっただけだから。 細かいことは一度も話したことがないのだ。 友作が嘘をついたわけではないのだが、林が勝手に勘違いをした。 敢えて小説を書いていると訂正する理由が見つからないので、そのままにしている。 「えーっと……、菅原道真です」 「あら、そうなの。 頑張ってね」 確かに菅原道真を主人公にした小説の案が浮かんだので、道真についてリサーチはした。 ただ、何にもならなかった。
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