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林をだましているようでとても申し訳ない気持ちになったりもするのだが、自分から恥をかくこともない。
売れない小説家、すなわちフリーター。
社会的に言われるクズである。
やはり、本当のことは言えない。
苦笑いを浮かべて会釈を返し、図書館の自動ドアを出る。
防音になっている図書館から出ると、外は土砂降りだった。
四月とはいえ、雨が降れば気温は下がる。
朝はあんなに暖かかったのに。
パーカーにジーンズと気軽な格好で来てしまった友作は寒さで身震いをした。
傘だってもちろん持っていない。
「ついてないなぁ」
とにかくパソコンだけは壊さないようにしなければいけない。
抱えるようにしてパーカーでパソコンを包み、雨の中を駆け抜ける。
図書館から家までは走って三分。
近道は図書館に隣接する公園を通り抜けすること。
木が多く暗い道だが、雨をよけるにはもってこいの道。
この公園を抜ければ、そこから十秒で家につく。
パーカーのフードをかぶり、とにかく家路を急ぐ。
その途中だった。
とにかく家に戻ろうと急ぐ中、視界の隅にはいったもの。
……手?
一度通り過ぎた道を慌てて戻る。
藪の中から少し見えていたのは人の手。
雑草が生え放題で、さらに木の陰になってよく見えなかったが、確かにそこには誰かが倒れていた。
紺色のスカートにベージュのダッフルコート。
黒いタイツにスニーカー。
長い髪は地面に広がっている。
寒い中倒れている彼女は小刻みに震えていた。
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