第1章

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比較的片付いている方だとは思うが、小さなキッチンの奥にはゴミ袋が置きっぱなしだ。 5畳くらいしかない狭い部屋にベットとテレビ、そして小さな茶舞台が一つ。 カーペットは敷いてあるがソファーは無い。 カーペットの上に彼女を降ろし、散乱している服を掴んで、腰を摩りながら風呂に向かい、とにかく洗濯物を洗濯かごに突っ込む。 そして乾燥に掛けたまま放っておいた結果、複雑に絡み合ったバスタオルとその他多数の衣類を引きはがし、彼女のところに持っていった。 「寒くないですか?」 「ご迷惑かけて、すいません……」 「すぐにタクシーを呼んで病院に連れて行ってもらいますから……」 携帯を取り出そうとした友作の手を、彼女が掴んだ。 「病院には、行けないんです」 「な、なんで!?」 「お金が、無くて……」 「家族にも僕から電話しますから、とにかく病院に行かないと」 「私には、心配してくれる家族がいないから……」 彼女は目に涙を浮かべていた。 どうして、そんなに悲しい顔をするのか。 儚くて、色白の彼女はとても可憐だ。 色々聞きたいことは山ほどあるけども、友作にそんな事をする勇気はなかった。 「そ、そうなんですか……」 「あの、ご迷惑でなければ……」 「なんでしょうか?」 「一晩だけでもいいんです。 ここにおいてもらえませんか?」 「ぼくは構わないけれど……、独身の、しかも見ず知らずの男の部屋にとまって大丈夫ですか?」 「お願いします、今晩だけ……。 朝になったら、出て行きますから。 怖いんです。 また、あの人が追いかけてくるんじゃないかと思うと……」 「ぼくは、いいけども……」 「ほんとうに、ごめんなさい」
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