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「そんな小説みたいな話がありますかね」
「あるんだよ。 真実は小説よりも奇なりっていうだろ?」
「言いましたっけ?」
「言うんだよ。 頼むから、一通り揃えてくれって」
若菜は疑惑の視線を友作に向けながら、買い物かごを手に下着や歯ブラシをそろえていく。
「詐欺、じゃないですか?」
「はっ!?」
「アメリカであったんですよ。 プールを貸してくれないかって、絶世の美女が来て、スケベなおっさんがその美女に見とれている間に彼氏が家を荒らしていくっていう話」
「何だそれ」
「だって、彼女は今、家に一人なんでしょう?」
「んまぁ、そうだけど……」
そんなことをするような子じゃなかった。
本当に凍えていたし、本当に怯えていた。
涙を浮かべて泊めてくれと頼みこんできた彼女に嘘はなかったと思う。
「女っていうのはね、みんな女優なんですよ。 怖いんだから」
「……」
若菜が変なことを言いだしてから、友作の頭の中は詐欺の話で一杯になってしまった。
しかし、たとえ詐欺だとしても家にとられて困るようなものはない。
ドアの鍵だって鍵とは呼べないほど弱々しいから、ドアを蹴られれば一発で破られるようなものだ。
今さら泥棒云々と心配する必要はないだろう。
しかし、精神的にはこたえるかもしれない……。
「風邪ひいてるなら、何かあったかい物でも買っていきますか?」
「ああ、うん」
若菜はインスタントスープを何種類かカゴに投げ込み、そのままレジに行った。
「全部で、2,690円です」
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