【覚醒】

3/9
前へ
/40ページ
次へ
  「っ…?」 懐かしい名を呼ばれながら、【藤次郎】は起きた。 スッと通った鼻筋の、両側で瞬く眼は未だ、僅かなあどけなさを残している。 「私が判りますか、若!」 名を呼んだ男を押し退ける様にして、ぐいと視界を遮るのは。 「……小十郎」 「ああ、若…!よくぞ御無事で!!」 家臣の【小十郎】だ。 言うなり、目覚めたばかりの藤次郎の手を取り、安堵の溜め息を深く、洩らした。 「…俺、……?」 然程悪くもない寝覚めを他所に、周りは騒然としている。 故に、男は疑問符を乗せて首を傾げた。 「覚えていらっしゃらないのですか。」 覗き込んだ侭の小十郎がまた少し、青冷める。 「近いぞ。何があったかと訊いている」 逆さに映る顔を軽く裏手で否み、ゆっくりと体を起こそうとした。 「痛っ…!」 「なりません、彼の【覇王】の一撃をまともに受けたのです。まだ安静にしていなくては。」 「…は?」 「盛大に吹っ飛んでたな、生きてるのが奇跡だぞー。藤次郎。」 「成実(しげざね)…口が過ぎるぞ。若のお身体に障ったら如何する。」 始めに名を呼び続けていた【成実】を宥める小十郎はそうして、また藤次郎を元の通りに横たえた。  
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!

31人が本棚に入れています
本棚に追加