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「っ…?」
懐かしい名を呼ばれながら、【藤次郎】は起きた。
スッと通った鼻筋の、両側で瞬く眼は未だ、僅かなあどけなさを残している。
「私が判りますか、若!」
名を呼んだ男を押し退ける様にして、ぐいと視界を遮るのは。
「……小十郎」
「ああ、若…!よくぞ御無事で!!」
家臣の【小十郎】だ。
言うなり、目覚めたばかりの藤次郎の手を取り、安堵の溜め息を深く、洩らした。
「…俺、……?」
然程悪くもない寝覚めを他所に、周りは騒然としている。
故に、男は疑問符を乗せて首を傾げた。
「覚えていらっしゃらないのですか。」
覗き込んだ侭の小十郎がまた少し、青冷める。
「近いぞ。何があったかと訊いている」
逆さに映る顔を軽く裏手で否み、ゆっくりと体を起こそうとした。
「痛っ…!」
「なりません、彼の【覇王】の一撃をまともに受けたのです。まだ安静にしていなくては。」
「…は?」
「盛大に吹っ飛んでたな、生きてるのが奇跡だぞー。藤次郎。」
「成実(しげざね)…口が過ぎるぞ。若のお身体に障ったら如何する。」
始めに名を呼び続けていた【成実】を宥める小十郎はそうして、また藤次郎を元の通りに横たえた。
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