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再び騒然と変わる空気を断ち切ったのも、藤次郎だった。
その身は、小さく震え始めている。
「どうした梵天丸、寒いのか?」
「…いいえ。」
「傷が痛むのか。」
「……いいえ…!」
「ならば、何故泣くのだ。父に、この輝宗に申してみよ。」
「…久しくして、父上にお会いしたものですから、……。」
それ以上は、声にならない。
眼から溢れる涙を、藤次郎は止める事が出来なくなっていた。
「…ははは!何と女子のような事を!!」
息子の言葉をして
思わず剣幕を緩めた【輝宗】は、一転して豪快に笑う。
「相変わらずだ、梵天…いや、政宗。…よく無事で居てくれた。」
違和感は止まない。
自分の知るものとは、【違う】。
其れだけが真実だと自覚しながら藤次郎はやっと、涙を拭った。
「痛み入る、お言葉。」
「うむ。押し掛けて悪かった。家督を譲れど子は子。一大事と聞いて、肝が冷えたわ!」
「以後、戒めて参ります。」
その言葉に心から安堵し、輝宗は頷くと再び豪快に笑う。
「小十郎!成実!」
「はっ。」
「帰る。これからも政宗をよう守り立てよ!!」
「ははっ!!」
「御意に!」
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