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過ぎ去る嵐。
「ぷっはー…殺されるかと思った!空気空気!」
堰を切った様に成実が体勢を崩す。
「我々は慈悲を頂いたのだ、成実。今一度気を引き締め、若をお守りせねば。」
「そういうの好きだなー、小十郎。」
「好き嫌いではない。」
「はいはい。で、藤次郎。どうすんだよー、摩天楼のこと。」
「……失敗…したのか、俺は。」
話の流れを汲み取り、ぼんやりと返す。
涙の乾いた瞳は、何処とも無く下を見ていた。
「気にすんなよ、ありゃ戦とは訳が違うんだからさ。」
「…少し、歩く。」
「お、手伝い要るか?」
「いい。…小十郎」
そうしていつも通り、左手を差し出す。
外出の際は、決まってこのやり取りがある。
劣等感か、罪悪感か。
何年経っても、自らの手で其の【帯】だけは、引き寄せる気になれずにいた。
「…は?」
「は、じゃなくて。眼帯。」
言ってもう一度、催促する。
「眼帯?…眼を傷められたのですか?」
「……。」
「若、やはりまだ…お休みになられていた方が宜しいのでは。」
「大丈夫。……じゃあ、鏡。」
「こちらに。」
あっさりと差し出されてしまう鏡。
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