31人が本棚に入れています
本棚に追加
涙を流した時にはまだ、半信半疑だった真実を
今、確める。
「……何と……。」
少し、複雑な感覚。
いつもより広く見える世界を、藤次郎は始めから疑っていたのだが。
(傷痕すら無いではないか…。)
思わず鏡に触れた。
ほぼ生涯を通して抱えていたコンプレックス―――【右目】は、其処にしっかり、瞬いている。
伊達【藤次郎】政宗。
何の因果か、彼は生まれ落ちて間も無く右目を患い、余生全てを半分の眼でしか見据える事が出来なくなった。
戦乱の世に翻弄されながら、家を守り通した最後の戦国武将。
らしく典型的な反骨精神の持ち主で、そのストイックさを後世は【独眼竜】と称えた
…筈、だったのだが。
(ただの竜になってしまった…。)
不思議と満たされる心の贅沢さを堪能しながら、藤次郎は改めて自分の置かれた状況を、見回す。
(仏にでも見入られたのか。確かに、俺は……。)
【死んだ】。
その感覚だけは、はっきり身に残っている。
老いた自分は、死に方も決めていた。
誰にも気取られず、部屋で、一人で……ゆっくりと息を吐く。
呼吸が少しずつ浅くなって
夢の中へ深く、潜り込んで行った。
そして訪れた【闇】。
覚めない夢の世界を浮遊して、
そして――――
最初のコメントを投稿しよう!