31人が本棚に入れています
本棚に追加
(そうだ。声。あれは…誰のものだったのか。)
……判る筈もない。
間違い無く、聴き覚えなど無い声だった。
(―――まぁ、良い。)
与えられたなら、再び全うする迄。
庭先に出た藤次郎は、風を浴びながら、両目でしっかり空を仰いだ。
「……何と広く、高い…。」
それは、当に忘れていた感覚である。
(手を伸ばせば、すぐに届きそうだと思っていたが……。)
遠近の整った視界の中に拡がる空は、恐ろしく広大だった。
隻眼で仰いだ時は常に、伸ばした手のすぐ先にあったものだ。
そして生前の藤次郎…もとい、【政宗】は、それをしばしば己の抱く野望に重ねていた。
「………成程、遠すぎる。」
失笑の混じるも、変に清々しく。
僅かに淀んで見える空は、かつて諦めた様々な野望を再び、思い起こさせていた。
「…小十郎は居るか。」
「此処に。」
「今から言うことを即刻、実行して欲しいのだが…。」
「…は。して、如何なることにござりましょうか。」
「俺を…独房に繋げ。」
最初のコメントを投稿しよう!