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ーー今日の、お礼?
洒落た包装へ目を戻し、咥内で繰り返す。瞬きを重ねる度に、頭の中のクエスチョンマークの数が増えていく。
それがやがて、表情にも影響を及ぼしたらしい。堪え切れず噴き出す音に、弾かれたように顔を上げた。
「何て顔してるんですか」
「は、……だ、って」
右、左と視線をさまよわせ、結局下に落ち着けた。
戸惑っているのも恥ずかしいのも悟られたくなくてーー見苦しいことは承知の上だ、不貞腐れたように唇を尖らす。
「別に、……大したこと、してねえのに」
普段はコンビニのパスタやらサンドイッチやらを呑むような勢いで消費しているこの男だが、旅館で言う宴会場規模の部屋で一人暮らししているくらいだ。
偏見かも知れないが、実家に帰れば相当良いものを飲み食いしているはず。
望まれて作ったとは言え、俺なんかの料理で満足できるわけがない。こんな形でお礼なんて、とんでもない。
「なんか……申し訳なくて、受け取」
距離をゼロまで詰められて、
両手が、ひくんと跳ねた。
簡単に振りほどけてしまう、緩い拘束。いつもの香水の匂いが遅れて薫る。
槙田の低い体温が、急上昇していく熱を吸って、俺は心地よい温もりに漂う。
「そういうこと言うと、抱きますよ」
耳朶を擽る低い声は優しい。
優しくて、ぞわぞわする。
「……も、抱いてんだろ」
そういう意味じゃないって分かってるくせに。
一層声を低められて、思わず目蓋を震わせる。服の裾をぎこちなく掴む。
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