月花は憂う

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 ぽかんとして、視界を縦に広げる。  槙田は壁に取り付けられたつまみに指をかけ、 「さっきの質問の答えです」  言いながらひねっていった。  天井から注ぐ光量がさらに落ちて、薄っぺらな画面がギラギラと眩しく感じる。  再びこちらを向いた端整な顔は、俺も包み込んでいる影と、鮮烈な光に塗り分けられていた。 「邪魔なだけの眼鏡をかけているよりも……興味を全く感じられなくて、この先も興味が湧かないだろうなって人たちに寄って来られるのが面倒だから」  酷く淡々とした、事務的な声音。  脳裏にちらついたのは、フロントで槙田を見ていた女子高生の姿だった。  槙田は男が好きだから――どんなに綺麗で可愛くても、女だったらみんな「興味がない人」に分類されるんだろう。少なくとも、恋愛対象としては。 ――ゲイって、多分、そういうことだよな。  確かにいつもの格好より、今の方がこう、女性にモテる気がする。  応えられないと分かっている相手に好きになられても――悲観し過ぎかも知れないけど、相手も自分も、傷つくだけのような気もする。 ――仕方ねえ、ような、……でも、  うつむけた視線が尖る。 ――それにしたって、暴露すんの遅すぎだろ。 ――2.0って俺より良いし、つーか、 「さ、俺は答えましたよ」 ――……一応、恋人なのに。  テーブルの脚が床を擦る音に、はっとする。 「今度はさくら先輩の番ということで」  槙田の怪物的膂力にかかれば、1メートル四方のテーブルの移動なんてあっという間だ。  気づけば左側の椅子とべったりくっつけられていて――槙田から俺のところまでの通路は、一本に。  その意味を理解したときには既に、ド変態はその一本道を、悠々と辿ってきていた。  退路は靴を脱いで椅子の上か、あるいはテーブルの下をくぐるかのどちらかで、迷っているうちにもう間近に迫っている。  こうなってしまっては、あたふたする様を見せても悔しいだけだ。 「……いくらなんでも近過ぎんだろ、あっち戻れ」  黙って視線を這わせてくる眼を、負けじと睨み上げる。  暗がりに深い色に染まった瞳が、すう、と細まり、 「暗いところで見る先輩も良いな」 「……うるせえし『センパイ』を見下ろしてんじゃねえよ。縮め」  くす、と微笑まれて黙殺される。  むっとしたところに諸手が伸びてきて、撫で下ろすように頬を包まれた。
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